福岡地方裁判所 昭和53年(行ウ)7号 判決
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【説明】
「当事者の主張
一 請求原因
1 原告の九州帝国大学(現在国立九州大学―以下「九州帝大」という。)法文学部副手に採用されて以降の職歴は次表のとおりである。
2 原告は、昭和五二年三月三一日被告福岡県を退職するに際し、被告県から退職手当として金一四五九万五三三六円の支給をうけたが、右退職手当算出の基礎となる在職期間には、原告が九州帝大退職後福岡第二師範学校(現在福岡教育大学に統合―以下「第二師範」という。)に就職するまでの間履歴に空白があるため、九州帝大に在職した期間が算入されていない。」
職 歴
始 期
(昭和年・月・日)
終 期
(昭和年・月・日)
九州帝国大学法文学部副手
二〇・一〇・一〇
二二・ 三・三一
福岡第二師範学校講師
二二・ 四・三〇
二二・ 九・二九
文部教官
二二・ 九・三〇
二三・ 八・三〇
総理庁事務官
二三・ 八・三一
二五・ 四・ 一
福岡県事務吏員
二五・ 三・三一
五二・ 三・三一
【判旨】
二次に、請求原因3につき判断する。
1 <証拠>によれば以下の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。
(1) 当時九州帝大教授であつた田中和夫は、当時の第二師範校長野田糾夫から、昭和二二年三月上旬、同校における法律の教員としての人材を推せんしてくれるよう要請をうけたので、当時九州帝大法文学部に副手として勤務していた原告にその旨話を持ちかけたところ、原告はこれを承諾し、推せんをえて、第二師範の教員になるために昭和二二年三月三一日九州帝大を退職した。
なお、副手は主任教授の研究の補助を職務内容とし、原告の退職当時の給与は月額金二八〇円であつた。
(2) 原告は、右の承諾をした後の同年三月中旬ころ、野田校長と会つたところ、野田から新憲法の講義の準備をしてくれとの内命をうけたので、九州帝大退職後も九州帝大の研究室に残り、第二師範の発令を待ちつつ講義の準備をしていた。
(3) 原告は、九州帝大から第二師範へかわるための事務手続きについては無関心で大学側に任せきりにし、昭和二一年勅令第二六三号に基づく教員適格審査についても、九州帝大の事務担当者からその審査をうけるための書類を出すよう催促されたので、第二師範への採用が内定した三月中旬ころその申請書類を九州帝大法科の事務室に提出したものの、その効果等については殆んど意に介さず、第二師範の発令は、新学期から原告を採用するとの野田校長の言を信じ、当然四月一日付でなされるものと考えていた。
(4) 原告に対する教員適格の判定は昭和二二年四月二四日付でなされたので、第二師範講師(給与月額金五六〇円)としての発令は、これを待つて同年四月三〇日付をもつてなされた。
2 そこで本件原告の退職手当算定の基礎となる在職期間につき、退職手当条例附則一二項(同項は「昭和二十八年十二月一日現に在職する職員又は職員以外の地方公務員等のうち、先に職員又は職員以外の地方公務員等として在職した者であつて、任命権者の承認又は勧しようを受けて他の任命権者に属する職員となるため退職し、かつ、任命権者の手続の遅延のため退職の日の翌々日以後において他に就職することなくその承認又は勧しようを受けた他の任命権者に属する職員となつたものの先の職員又は職員以外の地方公務員等としての在職期間は、後の職員又は職員以外の地方公務員等としての在職期間に引き続いたものとみなす。」と規定する。)の適用があるかにつき案ずるに、右認定の事実によるも、原告が「任命権者の承認又は勧しよう」をうけて九州帝大を退職したことは必ずしも明らかであるとはいえないばかりか、以下に述べるとおり、原告が前示のごとく教員適格審査をうけるに日時を要したため第二師範講師として発令が遅れたのは、右にいう「任命権者の手続の遅延のため」ということはできないものと解される。
すなわち、証拠によれば、教員適格審査は、昭和二〇年一〇月二二日付連合国最高司令官覚書日本教育制度に関する管理政策に関する件及び同月三〇日付同教員及び教員関係係官の調査、除外及び認可に関する件をうけた昭和二一年勅令第二六三号に基づき実施されたもので、軍国主義者又は極端な国家主義者等を教職から排除し教育の民主化を促進することを目的とするものであり、当時教職に就こうとする者は、教員適格審査委員会による教員適格の判定を受けなければ教職に採用されない状況であつたこと及び原告についての適格審査は、九州帝大法文学部内に設けられてはいたが、九州帝大ないし第二師範とは別異の機関である九州地区学校集団教員適格審査委員会によつてなされたことが認められる。そうすると、右認定の事実からすれば、教員適格の判定は、教職に就こうとする者の個人的な資格要件ともいうべきものであつて、その審査も任命権者とは別異の教員適格審査委員会によつてなされるものであるから、この適格審査に日時を要したが故に第二師範の発令が遅れたことをもつて「任命権者の手続の遅延のため」ということはできない。(原告としては、教員適格の判定後に九州帝大の退職がなされるように自ら留意していたならば、在職期間に空白が生じることは容易に避け得たと思われる。なお、前示の事実からすると九州帝大当局の方でもこの点につき余り配慮しなかつたようにみえるが、そのことは、逆にいうと、本件原告についての人事が、附則一二項で予定するいわゆる割愛人事に該るほどのものではなかつたことをうかがわせるものである。)
それゆえ、結局、本件については、退職手当条例附則一二項の適用はできないものといわざるを得ない。
(柴田和夫 綱脇和久 林田宗一)